駐車場探し、駅近マンションに住んだけれど

ライフ

今住む賃貸マンションは、私の人生史上一番駅に近い。

駅の改札まで5分もかからずに辿り着く。土砂降りの雨でもなければ、傘はいらないほどに近い。

14階の自室の窓からは、駅のホームが見下ろせます。

おかげで始発から終電まで、電車の走る音、駅のアナウンスが聞こえ続けるわけですが、慣れとはありがたいもので、数カ月も経つと余計な雑音は聞こえなくなってきました。

実際に聞こえなくなるわではありませんが、脳が認識しなくなるようです。

特にこだわりがあって駅近に住みたかったわけではありません。

たまたま気に入ったマンションの近くに駅があっただけ、といいうのが正直のところ。

何しろマンションを決めた日は、転勤先の北海道から一泊二日の強行軍のラスト半日。

この二日間で部屋を決めなければならぬ!というサラリーマン転勤族のさだめ。

数カ月前からネットで検索して目星を付け、毎日のようにチェックしていた物件は、この一泊二日の初日にあえなく敗退。

「つい2日前に決まってしまいました!」

という、不動産屋の営業マンの言葉を”ほんとにそんな物件あったのか?”と疑いたくもなるほどの好物件ではあったのです。

5階、角部屋、ルーフバルコニー付き。

このルーフバルコニーで天体観測をする自分の未来を想像してワクワクしたものです。

50代にして子供のころからの夢、天体観測ができるぞ!

残念。

代わりに提示された物件はどれもこれも納得いきません。

駅から遠くてもいい。高層階、角部屋、日当たり良好、3LDK。

いずれも一応は満たしてくれているのでしたが、どうもしっくりこない。

妻も不満顔。

この営業マンにやる気のなさを感じてしまったのは、ちょっと酷でしょうか。

彼がマンションを作ったわけでもないのはわかっているのですが…。

とりあえず喫茶店で夫婦頭を冷やし、作戦会議をしました。

そして、時間が刻一刻と削られていくなか、スマホで検索してヒットした今住む物件に一縷の望みを賭けてみたのです。

同じ県でも、ほとんど馴染みのない路線沿い。

一泊二日の部屋探しでは、最後の賭けでした。

ここがダメなら、あえなく妥協して、何年になるかわからない居住期間を不満タラタラに生きていくしかないのかあ…。と覚悟も決めましたが、まあ、実際にはどこに住んでも慣れていくものかもしれない、とも思いつつ。

しかしこれが”当たり”でした。

14階、南西角部屋、3方採光、もちろん日当たり良好。築15年。

広~いバルコニー。

妻も一目で満足してくれました。

まあ、家賃も”当たり”でしたね。予定より2万円高くなりました…。

小遣い減らすしかない。

でもまあ、残りの人生の内、どれだけの期間住むかはわかりませんが、働いているうちは楽しく暮らしていけると思えたわけです。

それから必要書類を記載して、夕方の飛行機で北海道に帰るという旅を終えたのでした。

そんな状況でしたから、いざ転居してきて初めて、

”え、こんなに駅近いのん?”

と驚いたわけです。

コンビニは歩いて30秒。14階からエレベーターで降りてくるのと同じくらいの時間です。

その先には駅と一体となったショッピング街があって、その中から改札に入っていけるというわけです。

”なんか罰当たりそう”と思えるほどの好立地だったのでありました。

さて、問題が一つ。

駐車場です。

わが愛車ジムニーを置くための月極駐車場がみつからないままの転居でした。

このマンションに決めたとき、駐車場があることはわかっていましたが既に満車とのこと。

それ以前に駐車場料金が2万円とあって、空いていたとしても借りられません!!

既に家賃で予算を2万オーバーしているわけですから、その上駐車場代で2万円なんて…、

小遣いどうのこうのどころではなく、副業しなければなりません。

しかし、いったいどんな人々がこういうマンションに住んでいるのかと思えば、駐車している車の半数以上は外車でした。

ここまでくると、罰が当たるだけの騒ぎじゃおさまらない気がしてくるほどに、不安にかられもしました。

挨拶する時も、「良いお天気でござあますでね。オホホ…」なんてやらなならんか?

さて、転居してからの数日間は、荷ほどきもそこそこに駐車場探しをしたわけですが、これが結構簡単ではなかった。

とりあえず地元の不動産屋に駆け込んでみましたが、どこの不動産屋も駐車場の紹介はしていない、という。

管理はしているけどいちいち紹介はしていないということみたいです。

どこの不動産屋でも、

「駐車場に連絡先を書いた看板があるので、そこに電話された方が良い」というアドバイスをくれるのですが、要するに現地に行って探せ!ということなんですね。

ネットの時代に足で探せ!とは!?

まあ、昭和生まれとしてはなぜかアナログな展開に少しばかり安心しつつ、未だよく知りもしない街中を、駐車場を探して歩き回ったわけです。

まずはマンションのすぐそばにある大き目な駐車場に目を付けました。歩いて1分。

ボロッちい看板に記された不動産会社に電話をすると、対応したおばさんらしい方は

「空いてますよう~」と実に嬉しそうに言ってくれたのですが、料金を聞くと、「2万円~!」と、これも嬉しそうに言ってくれたのでした。

無理!!

その後、目につく”月極駐車場”の看板に片っ端から電話をかけると、誰もが口を揃えたように言うのです。

「2万円!」

なるほど談合してやがる…。

少しずつ少しずつ自宅マンションから離れた場所へ向かうに従い、この談合の輪が見えてきました。

16,000円談合地帯、12,000円談合地帯、10,000円談合地帯。

駅から遠くなるに従い、値段は安くなっていくとです。

50歳を超えて、ようやく地価のしくみを身を持って、足を持って知ることになったわけでした。

やがて辿りついた地点は7,000円地帯。

マンションから15分ほど離れた、旧街道を越えた住宅地の中にありました。

それ以上安い物件を探すには、既に足はほとほとに疲れ切っていて、駐車場に住み着いているらしい猫が、そんなおじさんの姿を無感情に興味なさげに眺めており、”まあ、自分ごときが借りる駐車場はこんなもんさな”と分相応に即決したのです。

止まっている車は年代物の色の褪せたシビックだったり、改造しまくってボロボロになってます!的な車ばかりでしたが。

まあここなら静かで空も広い。駅近の喧騒とは程遠く、天体観測してもいいかも!

しないけど。

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