毎年年が明けると、正月気分もそこそこに多忙な時期がやってきます。
役所、企業、学校などにとってのひとつの区切りである年度末に向かって。
競馬でいうところの「最終コーナーを回って」、マラソンでいうところの「競技場に戻ってきて」、登山でいえば「8合目を越えて」、ようするに最後のラストスパートの時期です。
営業努力の賜物
この時期、仕事は頼まなくても入ってきます。
理由は、なんと言っても営業努力の賜物。
雨にも負けず風にも負けず、都会の真ん中で時々途方に暮れ、南に行っては愛想笑いを浮かべ、北に行ってはやれ暑いですね寒いですねとつまらぬ世間話をし、東に行っては仕入れた情報を饒舌に語り、西に行っては顧客の話に少し大げさに反応しつつ耳を傾ける。成果のたいして出ることのない徒労という名の営業活動の日々。不毛な大地に種を撒き続けてきた数カ月。
その種がいっきに芽を出し、花が咲き実になる。数々の泥臭い努力が予算達成という成果を生み出す魅惑の年度末。
まさに営業マンにとって栄光の軌跡!
と言いたいところでですが、残念ながらそんな恰好の良いものではありません。
顧客企業の都合によるところが一番の理由です。
- 年度予算の消化
- 税金対策
- 発注担当者の怠慢
と言うのが実態。
夏休みの宿題を先送り先送りして、明日2学期が始まるという夜に、半べそをかきながら親に自由研究の課題の代筆を頼んだり、ノートのマスに漢字をひたすら書き続けるような、
”夏休みの宿題全部を一晩で終わらせなきゃ!”的な仕事の発注なわけです。
方々様々な担当者からメールで送信されてくる発注書の納期欄に記載される文字は「納期ー3月末厳守」。
まあ、これはかわいいもんです。
やがて繰り出される発注書には「納期ー至急」の文字が連なります。
ここまで至急案件が並ぶと優先順位も付けられません。
閑散期には日長待ち続けても週に1~2通しか届かなかったこの「発注書メール」が、毎時5~6通のペースで送付され続けるのですから、たまったものではありません。
まあ、イコール売上数字も延びていくのですから、ありがたい事なのですが…。
エンドレスワーク
当然の事ですが、発注書が届いたからと言って仕事が終わるものではありません。始まりなのです。
そこから関係各所への手配、顧客との交渉、各工程の進捗チェック等々、様々な仕事が繰り広げられていくわけです。
日頃行っているルーティンワークとはいえ、手足に口、頭をフル回転させなければなりません。
瞬時の判断、交渉の駆け引き、関係各所のコントロール。
メール、電話、面談を駆使して各アイテムを処理していくわけです。
時に相手を電話で𠮟りつけることもあれば、数分後には別の案件で同じ相手に叱られることもよくあることで。
いちいち気に病んでいたら仕事は前に進んでくれない。
ひたすらに感情を押し殺し、左手で携帯電話を持ち、右耳に固定受話器を挟み、右手はパソコンのキーボードを操作する。
瞬間的に自分の回線はパンクします。足すら使いたいくらいの気持ちのなか、猛烈なスピードで事を処理していくわけですな。
隣でそんな姿を眺めていた同僚K氏は、さすがに気の毒になったのか
「届けるだけとかだったら、手伝いますよ」の一言。
「届けるだけだったら宅配業者かバイク便に頼むわ!!」
とは口には出しませんが、
年中不毛な大地に種まきもせず、雨の日にはオフィスでネットを眺め、風の日にもオフィスでネットを眺め、東西南北どこへも行かずにネットを眺め、年度末になっても仕事の量も増えず、ノルマ達成も当の昔に諦め、会社で一日中ネットを眺めている同僚K氏は、あわよくば「この人の仕事のサポートをして、会社に貢献しました!」的なアピールをしたいのでしょう。
なんていう、同僚批判というつまらない考えも、この大嵐のような忙しさの中ですから許されてもよいですよね。
せめて2,3件の案件でも、
「責任もってやっておきますよ」
の一言でもあれば、売上なんてくれてやるのに。
このK氏、芸能ネタを仕入れるには貴重な存在ではあります。
ひからびたおにぎり
さて、朝から始まった怒涛の仕事の波は、大波のままとめどなく続きます。
携帯電話も固定電話もメールも、止まることはありません。
人間の集中力は1日に90分程度しか続かないのですから、既に限界は超えてしまっているのですな。
熱血漫画のセリフが思いだされます。
「自分のリミッターを外せ!」
外したくもありませんが…。
午後の3時頃になって、ようやく発注者達も関係者達も疲れてきたのか波もおさまってき、ふとオフィスの床を見ると、昼に食べかけたコンビニのおにぎりが、無残にもひからびて転がっていました。
その姿が、とても悲しくて悲しくて、優しく拾って紙にくるんで葬ってあげました。
食品ロスですね。あー、そういえばお腹空いたな…。
そんな安寧な時間も束の間、すぐにまた大波、大波、大波。
「えーい!もう飽きたよ、仕事!!」
と独り言ちオフィスの窓辺にたつと、外はすっかり暗くなっていて、見下ろす道には家路に向かう人々の流れが見えたのでした。
前の日の晩に作ったTO DOリストの半分も終わらずに、新たに加えられたリストがマントルに届くくらいに底まで並んでいるとです。
受注金額の集計表を見ると、今期ノルマは楽に超えておりますですが、
今日も定時に帰れません。
トホホな気分でうなだれていると、後ろから声をかけられました。
「〇〇商事の〇〇さんから電話ありました。至急の案件をメールしておいたので確認してください!とのことでした」
ドボボ…。
魅惑の休日出勤
処理しきれないTO DOが日々累積し続け、週の終わりの金曜日には、対処しきれない現実を突き付けられますが、必殺の伝家の宝刀が炸裂するわけです。
ザ・休日出勤
これ、魅惑的な言葉ですよね。
誰もいない、電話のかかってくる心配のない静かなオフィスで、溜まった仕事を粛々と、スーパーサイヤ人的な猛烈なスピードで処理できる、魅惑的な時間。
チョコレートをパクパク口に放り込みながら、ポテトチップスを食べながら、心癒してくれる「青春ヒットポップス」を聴きながら、時々音をたててオナラをしながら、累積仕事をおっつかせるわけです。
魅惑ですね~。
でも、50代の体には着実に確実に明確に”疲労”が蓄積されていくのですよね。
体、だる重~。