尿意、便意を感じたら、即刻出すべきです。
思い立ったが吉日。鉄は熱いうちに打て。コーヒーの冷めないうちに。
なんてことを言うまでもなく、人間に備わった生存欲求、生存義務、生理的欲求。
食べる、出す、眠るの”出す”
当たり前と言えば至極当然過ぎるほどに当たり前のことではありますが、私、この”尿意、便意を感じたら、すぐに出す”境地に達するまでに50年余りかかった気がします。
小さい頃から、トイレに行くのが面倒だったのです。
なので、オネショは結構な歳までしてました。
ある時、寝る前に必ずトイレに行く、したくなくても行く、と決めてからオネショはしなくなりましたが。
それでも、何かに夢中になっている時は、どうしても面倒くさくて後回しにする癖は治りませんでした。
忘れもしない小学2年生の時、きっと大半の人は経験ないでしょう”授業中に教室でお漏らし”をしてしまったのです。
当然、授業は中断。放課後掃除の時のように、みんなの机は教室の端に寄せられ、私の漏らしたオシッコの溜まりを、担任の先生はバケツの水で流し、クラスメート総出で雑巾がけをしたのであります。
あの時自分はどんな気持ちでいたのかの記憶は、もう定かではありませんが、放課後、先生がどこからか調達してきた大き目のジャージを履いて、濡らしてしまった自分のパンツとズボンを入れた手提げ鞄を持ち帰る道すがら、クラスのリーダー格だったカトウ君が、
「あんまり気にするなよな」
と声をかけてくれたのは覚えています。
小学2年の頃と言えば、私の初恋の人と同じ教室で学んだ時期でもあります。
7年越しの初恋が失恋に終わったのは、もしやこの時の”お漏らし”が原因だったのではないだろうか…。
教室でお漏らしをしてしまう男の子に告白されたら、「はい、私も好きです!」とは言えないでしょう?
その後、教室でお漏らしはしなくなりましたが、大人になっても似たようなことは何度もあります。
20代の頃、朝一番で顧客のもとへ訪問した後のことです。
クレーム対応でこっぴどく説教をされた後、トボトボと駅に向かって歩いていた時、突然尿意に襲われたのです。
思い起こせば、顧客を訪問する直前に尿意を感じてはいたのですが、怒られることを優先してトイレに行くことを後回しにしていたのです。
駅まではほぼ15分。突然襲ってきた尿意は、歩くごとに強くなり我慢出来なくなるレベルに達しますが、どこにもトイレらしきものは見当たらず、並んでいるのは商店と雑居ビルと普通の民家。
東京の街はいろいろ便利な街ではありますが、”野”というものがないのですよね。
”野”、”野”、”の”です。
ようやく見つけた小さな小さな、砂場とブランコ一つだけの小さな公園には、公衆トイレはなかった。
仕方なく公園の生垣に立ちションをしたわけです。
が、運よくというか運悪くというか、自転車巡回中のお巡りさんに見つかるわけです。
「お兄さん、そこで何しているの?」
とても素っ頓狂な質問ですよね。見ればわかるでしょ。
”立ッションしてるんです!!”
我慢に我慢を重ねた私の膀胱からは、実に大量のオシッコが永延と流れ出ている最中でした。
「どうしてこんなところでオシッコしてるの?」
そんなの見ればわかるでしょ。
”我慢できなかったからしているんです!!”
まあ、このお巡りさん、一応出来た人らしく、私が放尿を終えるまでは待ってくれました。
途中で止めろと言われても、きっと止まらなかったと思うんです。
その後、名前と住所を聞かれ、身分照会。指名手配はされていない事を告げられるわけです。
”当たり前でしょ!されてたらこんなところで立ッションしてないです!!”
いろいろ説教されましたが、この時初めて知りました。
立ッションは罪になるのですね。
結局、捕まることはありませんでしたが、当時の私にとっては衝撃的事実でした。
じゃあ、田舎の”野”でじゃんじゃん立ッションしている方たちは、みんな罪人ってこと?
刑事ドラマの張込み中のシーンで、男女の刑事が言い合いするシーンてあるではないですか!
「女は男みたいにそこいら辺でジョボジョボできないんですよ!」
あれって、男はそこいら辺でジョボジョボしてもいいってことなんではないですか!
さてさて、そんなことがあっても性懲りもなく、私の悪癖は続きます。
あれは40代半ば頃のことです。
営業先から会社へ戻るとき、突然便意を感じたのです。便意です。今度は大です。
地下鉄を降りて地上に出た瞬間でした。会社までは歩いて5分。
まあ間に合うかと歩いていると、秒単位で便意が増してきたのであります。
ようやく会社ビルの前に辿り着いた時には、もうウンコ氏が「出るぞ!」と言わんばかりな状態となってしまいます。
「押しとおーる!」(映画「もののけ姫」の主人公アシタカのセリフ)っていう感じで。
小走りで走りこんだエレベーターに、ありがたいことに同乗者はおらず、10階フロアのボタンを押したあと、私は思わず人差し指と中指でお尻の穴を押さえたのであります。
もちろんズボンの上からですよ。
門前から押し通ろうとするアシタカ君を、2本の指で押し通らないように抑えたわけです。
あの時ほど、10階までのエレベーターが昇る時間を長く感じたことはありません。
幸いなことに、途中から乗り込む人もなく(乗り込まれたらおそらく通報されていたかもしれません。肛門を2本の指で押さえて、身悶えている変なおじさんとして)、会社のあるフロアに肛門を押さえながら降り立ち、数メートル先の男子トイレになんとか到達。個室には入りました。
アシタカ君は、「押し通~る!!」を繰り返してきます。
さて、この時、今では見るのも場末の公衆トイレか、歴史のある大衆食堂だけとなった和式便器を見下ろして、様々な事を考えるのであります。
ズボンのベルトを外し、チャックを開け…たまでは良いのですが、さあこの次に何をしていいのやら?
当然のことですが、アシタカ君を押し通らせるためには、ズボンとパンツを下ろし、この和式便座を跨がなければなりません。
しかし私の人差し指と中指は、ズボンの上からがっちりと、肛門を押さえているのです。離したら我らがヒーローアシタカ君は、門をこじ開けて入ってくるはず、いや、出てくるはず。それも一瞬のうちに。
「押し通~る!!」
段取りは極めて簡単です。
指を外す→ズボンとパンツをいっきに下げる→と同時に便器に跨る
→アシタカ君、押し通~る
トップアスリート達が、100分の数秒の世界で身を削っているのと同じくらいな気持ちで、この極めて簡単・単純な動作をこなせばいいだけ…。
日頃使っていない脳細胞を使って筋肉を超人の如く動かすことが出来れば、必ずやミッションをこなすことが出来るはず。
とかいうことを考えながら、肛門を指で押さえたまま、あ~!う~!だの身体を悶えさせていたわけであります。
変態ですな…。
いよいよ我慢の限界が超えかかった時、私の身体能力も限界を超えてくれたのであります。
指を離す→ズボンとパンツを同時に下げる→と同時に便器に跨る
そいういう競技があったなら、きっと私は世界一です。
聞くもおぞましい音をたてて、アシタカ君は押し通っていったのでした。
ふう…。
果たしてこれ、40代のおっさんのすることでしょうか…。
とまあ、こんなことがいろいろありまして…(実はもっとおぞましくも恥ずかしい出来事もあるのですが、それはまたの機会に)、50代を越えた今、
”尿意、便意を感じたら、今すぐ出す”境地に達することが出来たのであります。
まさに、50にして天命を知ったのですな。ハハハ!