仕事に限らず、約束を守るって大事なことですよね。
毎日の生活の中の些細な事もそうですが、世の中全てが、約束を守ることで成り立っている気がします。
若い頃に小さな運送会社の社長に言われた事があります。
「約束を守る、ただそれだけを実行することで、そこそこ仕事で成功できる。」
20代で独立し、小さいながらも会社を少しずつ大きくしてきた社長の言葉でした。
まだ駆け出しだった私は、”そんな簡単なこと当たり前じゃん”と思ったものです。
勿論、それはとっても難しいことでした。
約束の時間に遅れる、約束の期日までに見積書を提出出来ない、約束の納期に納品出来ない。
理由は様々。
自分の怠け心、関係者の怠慢、突発的な事故の類。
電車が遅れまして、工場がミスをしまして、思いのほか作業にてこずりまして、
などというのは、全て言い訳でしかないのです。
どんな理由にせよ、営業マンとして顧客と約束をしたからには、たとえ自分の非はゼロだったにしても、全ての責任は営業マンが負うものだと思っています。
当たり前のことですが、ビジネスでは結果が全て。
大事なお客様と交わした約束を守れずに、時に叱られ、時に怒鳴られ、ため息をつかれ、信用を失う。
最悪の場合、仕事を失い売上を失います。
約束を守る。
簡単なようでとても難しく、とっても大事なことだと思います。
本当の意味で「約束を守る」ことを理解できたのは、50代になってからのような気がしています。
仕事全体が見渡せるようになり、手順を熟知し、関係者との連携の仕方もわかってくる。
いかに与えられたミッションを素早く、無駄なく、間違いなく遂行するこが出来るか。
ひとつひとつの約束を守るためにすべき”仕事”の全体を俯瞰して段取りをとれるようになって、余裕をもってお客様を満足させることが出来るようになりました。
その中で、大事なことの気づきがありました。
「断る勇気」
出来ない約束はしないということ。
これは自分が出来ない事柄を闇雲に断ることではありません。
お客様の要望に対し、最善を尽くしてもできないと判断した時に断る勇気です。
例えば、通常5日間かけてやっていた仕事を、「3日でやって欲しい」と頼まれた時。
よくよく話を聞いて、お客様ののっぴきならない事情を知った上で、「なんとかしてあげたい」と思うのは、担当営業マンとして当然かもしれません。
まず、通常の流れを想定してみる。どうにかして時間短縮できないか。
もちろん物理的に無理なものは無理です。光の速さを超えることはできないし、公道を車で時速200キロで走ることはできません。
ならばそれでない部分はどうか。自分のスキルアップもあるでしょう。ITを活用した作業効率アップもあるでしょう。関係者を巻き込んでスピードアップするこも出来るかもしれない。
そうして出た結論が
「4日でなんとかします」
であっていいのです。
「それなら結構です!」
と断られたら、それはそれまでです。
でも、私の経験上、たいていのお客様は理解してくれます。
そして最後には感謝の言葉をいただけます。
「無理をきいてくれてありがとう」と。
どんな無理な仕事でも、「やりますよ」と言ってくれたことは、必ずこなしてくれた運送会社の社長でした。
見た目は、小太り、頭は綺麗に禿、色眼鏡をかけた社長はどうみても、堅気の人には見えませんでしたが、その見た目とは裏腹(?)に、酒は一滴も飲めず、タバコも吸わない。
なのに、3か月に一度、必ず飲みに行こうと誘ってくれました。
まだ若い私にお寿司をご馳走してくれ、必ずその後、行きつけのスナックでカラオケを歌ってくれました。
社長の歳では似合わないJ-POPの流行り歌を、
「この歌、孫が好きなんです」
と言っては、その小太りの体を揺らしながら何回も楽しそうに歌っていました。
ある年、仕事が多忙を極めた私は、社長の誘いを断り続けていました。
実際、本当に忙しかったのです。
ようやく仕事も落ち着いたころ、社長はそれを見計らったように連絡をくれました。
「そろそろ、行きましょうよ」
その子供のような言い方が、なんだか可笑しくて、翌週末に誘いに応じる約束をしました。
その日の約束を、社長はとっても楽しみしていたと、後で事務の女性に聞きました。
週明け、社長の急逝の訃報を受け取ります。
朝方に倒れて、そのまま意識が戻らぬまま亡くなったそうです。
電話でその報を聞いた私は、言葉を失いました。何も言えずにただ、受話器を握りしめたままでした。
結局、社長と飲む約束の晩は、社長の通夜になりました。
仕事では絶対に約束を守ってくれた社長は、最後に約束を守ってはくれなかった。
通夜の帰りに立ち寄った居酒屋で、私は人目も気にせず泣き続けました。
”死は残された者に意味がある”
出会った方々の死を受け止める年代になりました。
思うことは、
”ある日突然に逝ってはいけない。せめてその死を受けとめるだけの時間を与えて欲しい。残った者の為に”
今でも、あのJーPOPを聞く度に、社長の事を思い出します。
最後の約束は守ってくれなかったけれど、社長の教えてくれた「約束を守る」ことの大切さも忘れません。